top of page

研究成果

多機能な中殿筋が円滑な二足歩行への移行を可能にした

Shitara T, Ito K, Goto R, Fujiwara T, Hirasaki E, Nishimura T, Nakano Y. (2026) A versatile gluteus medius drove a seamless transition to bipedalism. Journal of Human Evolution, 217: 103856

設樂哲弥(助教)と西村剛(教授)らは、ニホンザルにおいて四足歩行から二足歩行への移動運動様式が変化すると、四足歩行に適応的な中殿筋の機能から二足歩行に適応的なそれへと変化することを明らかにしました。従来、中殿筋の機能変化は骨盤のかたちが変化することに起因すると考えられてきました。しかし、本研究では、筋骨格モデリングと生体運動計測のマッチングに基づく筋モーメントアームのシミュレーションによって、骨盤形態の変化がなくても、移動運動様式が変化するだけで、二足歩行に必要な中殿筋の機能が現れることを実証しました。これは、「行動の変化」によって二足歩行の頻度が上がり、それによって二足歩行に適応した「形態の変化」をもたらした可能性を示唆します。この成果は、人類進化史における中殿筋の機能変容のプロセスの新たな理解をもたらすだけでなく、行動から形態へという直立二足歩行の進化機序を根底から考え直すきっかけになりました。

1.背景
中殿筋とは骨盤と大腿骨をつなぐ骨格筋です。この筋は、二足歩行時の片足立ちの期間に活動し、浮いている脚の方に傾いていこうとする骨盤を引き留めることで、左右に安定した歩容を実現しています。このような二足歩行に適応的な中殿筋の機能は、骨盤のかたちが、サル的な背腹に扁平な形状から、ヒト的な背腹に幅広い「お椀型」の形状へと変化することで、関節に対する筋の配置が変わることによって生じたと考えられてきました。しかし、同時に、筋の機能は関節角度に依存して変化することも知られています。ニホンザルに代表されるような日常的に四足歩行で移動するサル類でも二足歩行が実行可能である事実を踏まえると、四足歩行から二足歩行への姿勢の変化そのものが中殿筋の機能変化を駆動した可能性が考えられます。本研究では、ニホンザルを対象に四足歩行時と二足歩行時の中殿筋のモーメントアームを比較することで、移動運動様式の変化が中殿筋の機能に及ぼす影響を明らかにしました。

2.研究手法
屍体標本から作製した筋骨格モデル(N=8)と、生体ニホンザル(N=2)の運動計測から算出した三次元股関節角度を計算機上でマッチングすることで、歩行時の筋の配置を再現しました。股関節における三つの関節軸(屈伸軸、内外転軸、内外旋軸)と、中殿筋の作用線との最短距離(筋モーメントアーム)をそれぞれ計算し、中殿筋の収縮力がどの軸回りの回転運動に多く変換されるのかを四足歩行と二足歩行で比較しました。

3.結果と考察
四足歩行では、中殿筋は主に大腿の内旋に働くことがわかりました。内旋とは大腿骨の長軸回りに大腿を内側にねじる動きで、大腿を固定した状況では骨盤が接地している脚の方に回転します。この動きは、後肢を一直線上に位置させることに寄与し、一本橋のような樹枝上での歩行に適応的であると考えられます。一方で二足歩行では、中殿筋は主に大腿の外転に働くことがわかりました。外転とは大腿の末端を体の正中から遠ざける動きで、大腿を固定した状況では骨盤が接地している脚の方に持ち上がる運動が生じます。この動きは、片足立ちの期間に自重によって浮いている脚の方に向かって傾斜していく骨盤を引き留めることに寄与し、歩容の左右安定性に寄与すると考えられます。
このような機能変化は、歩行姿勢の変化に伴う股関節の伸展角度の増大に起因すると考えられます。四足姿勢では骨盤と大腿がほぼ90°に直交しています。このとき、中殿筋の作用線は大腿の長軸と直交することで、大腿骨の長軸回りに大腿を内側にひねる内旋が生じます。一方で、二足姿勢では骨盤と大腿が一直線に並びます。この時、中殿筋の作用線は大腿の前後軸と直交することで、大腿骨の末端を外側に開く外転が生じます。
本研究では、二足歩行への移動運動様式の変遷に伴い股関節の伸展角度が増加することで、関節に対する筋の配置が変わり、二足歩行に適応的な中殿筋の機能が生じることを示しました。この成果は、中殿筋の機能変容は従来言われてきたような形態の変化から始まるのではなく、形態の変化が起こる前の、四足から二足への「行動の変容」に起源する新たな可能性を示唆しました。

Shitara T, Ito K, Goto R, Fujiwara T, Hirasaki E, Nishimura T, Nakano Y. (2026) A versatile gluteus medius drove a seamless transition to bipedalism. Journal of Human Evolution, 217: 103856

Graduate School of Human Sciences, The University of Osaka

1-2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, JAPAN

© 2025 by Biological Anthropology Lab., The University of Osaka

bottom of page