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This section introduces papers and books published over the past five years (in Japanese).
テングザルは大きな鼻で声の個性を発揮
大阪大学大学院人間科学研究科の西村剛教授と、立命館大学理工学研究科の徳田功教授、京都大学野生動物研究センターの松田一希教授らの研究グループは、東南アジアの熱帯雨林に生息するテングザルのオスが、天狗のような大きな鼻を通じて発する声を使って、個体認証している可能性があることを発見しました。
テングザルのオスは、成体になるにつれて鼻(外鼻)が大きく発達します。その大きな鼻は、見た目からオスのステータスを示すほか、声の高さを低くして体の大きさをアピールしていると考えられてきました。サルに限らず、さまざまな動物において、声の高さは、それを発する個体の体の大きさとよく相関していることから、相手の体の大きさを識別する手がかりとして使われています。テングザルの大きな鼻は、そのような機能をより強調する器官として進化してきたと考えられてきました。
今回、西村教授らの研究グループは、よこはま動物園ズーラシア(園長、村田浩一)と共同で、テングザルの成体と若年個体の鼻の空間(鼻道)の三次元デジタル形態モデルを作成して、その音響学的効果を計算シミュレーションで解明しました。そして、若年期から成体にかけての鼻の大きさの発達には、声を低くする効果が認められました。このことから、声の高低によって発達段階を識別していることが考えられ、これは従来の見解と一致します。一方、成体同士の鼻の大きさの違いには、声に個性をもたらす効果もあることがわかりました。これは従来の見解にない発見です。私たちが声を聞いて話し相手を識別できるように、テングザルも声を通じて、相手のオスの体の大きさだけでなく、個体そのものを識別していることが示唆されます。
今後、研究を進めることで、テングザルは声によって、それを発したオスが誰であるかを聞きわけ、行動を変えているのか解明することが期待されます。
本研究成果は、英国王立協会誌インターフェースに、8月13日(水)午前8時5分(日本時間)に公開されました。
Yoshitani T, Miyazaki R, Seino S, Edamura K, Murata K, Matsuda I, Nishimura T*, Tokuda IT*. (2025) Individual vocal identity is enhanced by the enlarged external nose in male proboscis monkeys (Nasalis larvatus). J. R. Soc. Interface 22: 20250098.
樹上二足歩行は人類の直立二足歩行の前適応
藤原崚宇 (博士後期課程)、設樂哲弥(助教)、および中野良彦(准教授)らは、テナガザルが地上と樹上とで、足場の条件に応じて、同じ二足歩行でも異なる運動を行っていることを明らかにしました。サル類での樹上での二足歩行の運動は、人類の地上での直立二足歩行を進化させる要因の一つと考えられています。本研究成果は、樹上に最も適応した類人猿であるテナガザルでの運動解析から、サル類に見られる樹上二足歩行の運動戦略が、地上に降りた人類における直立二足歩行へのスムーズな移行の礎になったことを示唆しました。
Fujiwara, T., Ito, K., Shitara, T., Nakano, Y. (2025). A three-dimensional kinematic analysis of bipedal walking in a white-handed gibbon (Hylobates lar) on a horizontal pole and flat surface. Primates 66: 189–206
中殿筋の進化が人類を直立二足歩行へと導いた
設樂哲弥助教(当時、大阪大学人間科学研究科大学院生)は、ニホンザルの中殿筋が股関節の内旋に働くことを明らかにしました。中殿筋とは骨盤と大腿骨近位部を結ぶ筋肉で、ヒトでは骨盤の傾斜を防ぐことで、左右に安定した二足歩行を実現しています。二足歩行に適したヒトの中殿筋は、サル類が持つ身体的基盤をもとに進化したと考え られていますが、そのサル類の中殿筋が彼らの主要な運動様式である四足歩行にどのように寄与しているのかが未解明でした。本研究では、屍体標本から構築した筋骨格モデルに実験で計測した四足歩行データを入力することで、実運動時における中殿筋の働きをシミュレートすることに成功しました。その結果、ニホンザルの中殿筋は従来考えられていたような大腿を後方に引く動作ではなく、つま先を内側に向けるような動作に働くことがわかりました。本成果は、古典的な形態研究では解明できなかった動的な筋の働きを明らかにし、中殿筋の機能進化史の根本を問い直すきっかけとなりました。
Shitara, T., Goto, R., Ito, K., Hirasaki, E., & Nakano, Y. (2022). Hip medial rotator action of gluteus medius in Japanese macaque (Macaca fuscata) and implications to adaptive significance for quadrupedal walking in primates. Journal of Anatomy, 241(2), 407-419.
