
西村剛教授(当時、京都大学准教授)は、D. ゴメリー(フランス・ソルボンヌ大学、CR2P研究ディレクター)、B. スニュー教授とM. ピックフォード博士(フランス国立パリ自然史博物館)らの研究チームに参画し、後期中新世ケニア産コロブス化石の新属新種Sawecolobus lukeinoensisを記載しました。
1. 背景
1990年の中頃まで、ケニアのチュゲン丘陵のLukeino累相からは、オナガザル上科の化石は数点発見されているだけでした。1998年からケニア古生物学調査(Kenya Paleontological Expedition)率いる調査が開始され、Lukeino累相下部のおおよそ600-580万年前の産出地であるAragaiで新しい化石の発見が相次ぎました。四肢骨は3点のみでしたが、ひじょうに保存状態の良い頭蓋骨や歯の化石が多く産出しました。
2. 成果
本研究では、コロブス化石について、他のアフリカ産、ユーラシア産化石と比較解析し、Sawecolobus lukeinoensisという新属新種を記載しました。研究のうち、マイクロCT画像の解析を担当しました。比較的中〜小型のコロブス類では、コロブスらしく平らな顔をしています。Sawecolobusは、東〜南アフリカでよく産出するCercopithecoidesと、顔面や頭蓋冠の特徴がよくにいています。例えば、今回のマイクロCTを用いた解析で、Sawecolobusには上顎骨の中に、上顎洞(副鼻腔の一つ)が確認されました。これは、現生のコロブスにはない特徴ですが、Cercopithecoidesにもあることが知られています。しかし、Sawecolobusは、Cercopithecoidesと異なり眼窩上隆起があまり発達していないところが大きな特徴です。下顎骨の特徴の相違は顕著です。Sawecolobusは下顎枝がほっそりとしていますが、Cercopithecoidesはがっちりしています。オトガイの傾きも大きく、Cercopithecoidesのように立っていません。
3. 波及効果
本研究で報告したLukeino累相から発見された多くの化石は、中新世のオナガザル上科の東アフリカでの多様性のありようを明らかにするとともに、同時代のアフリカにおけるオナガザル上科の分布の空白を埋める貴重な発見です。現在も、共同研究を進めています。
Gommery D, Senut B, Pickford M, Nishimura TD, Kipkech J. (2022) The Late Miocene colobine monkeys from Aragai (Lukeino Formation, Tugen Hills, Kenya). Geodiversitas, 44(16): 471-504.