
最近の研究成果
最近5年間の論文や著書等を紹介します。
多機能な中殿筋が円滑な二足歩行への移行を可能にした
設樂哲弥(助教)と西村剛(教授)らは、ニホンザルにおいて四足歩行から二足歩行への移動運動様式が変化すると、四足歩行に適応的な中殿筋の機能から二足歩行に適応的なそれへと変化することを明らかにしました。従来、中殿筋の機能変化は骨盤のかたちが変化することに起因すると考えられてきました。しかし、本研究では、筋骨格モデリングと生体運動計測のマッチングに基づく筋モーメントアームのシミュレーションによって、骨盤形態の変化がなくても、移動運動様式が変化するだけで、二足歩行に必要な中殿筋の機能が現れることを実証しました。これは、「行動の変化」によって二足歩行の頻度が上がり、それによって二足歩行に適応した「形態の変化」をもたらした可能性を示唆します。この成果は、人類進化史における中殿筋の機能変容のプロセスの新たな理解をもたらすだけでなく、行動から形態へという直立二足歩行の進化機序を根底から考え直すきっかけになりました。
Shitara T, Ito K, Goto R, Fujiwara T, Hirasaki E, Nishimura T, Nakano Y. (2026) A versatile gluteus medius drove a seamless transition to bipedalism. Journal of Human Evolution, 217: 103856
テングザルは大きな鼻で声の個性を発揮
大阪大学大学院人間科学研究科の西村剛教授と、立命館大学理工学研究科の徳田功教授、京都大学野生動物研究センターの松田一希教授らの研究グループは、東南アジアの熱帯雨林に生息するテングザルのオスが、天狗のような大きな鼻を通じて発する声を使って、個体認証している可能性があることを発見しました。
テングザルのオスは、成体になるにつれて鼻(外鼻)が大きく発達します。その大きな鼻は、見た目からオスのステータスを示すほか、声の高さを低くして体の大きさをアピールしていると考えられてきました。サルに限らず、さまざまな動物において、声の高さは、それを発する個体の体の大きさとよく相関していることから、相手の体の大きさを識別する手がかりとして使われています。テングザルの大きな鼻は、そのような機能をより強調する器官として進化してきたと考えられてきました。
今回、西村教授らの研究グループは、よこはま動物園ズーラシア(園長、村田浩一)と共同で、テングザルの成体と若年個体の鼻の空間(鼻道)の三次元デジタル形態モデルを作成して、その音響学的効果を計算シミュレーションで解明しました。そして、若年期から成体にかけての鼻の大きさの発達には、声を低くする効果が認められました。このことから、声の高低によって発達段階を識別していることが考えられ、これは従来の見解と一致します。一方、成体同士の鼻の大きさの違いには、声に個性をもたらす効果もあることがわかりました。これは従来の見解にない発見です。私たちが声を聞いて話し相手を識別できるように、テングザルも声を通じて、相手のオスの体の大きさだけでなく、個体そのものを識別していることが示唆されます。
今後、研究を進めることで、テングザルは声によって、それを発したオスが誰であるかを聞きわけ、行動を変えているのか解明することが期待されます。
本研究成果は、英国王立協会誌インターフェースに、8月13日(水)午前8時5分(日本時間)に公開されました。
Yoshitani T, Miyazaki R, Seino S, Edamura K, Murata K, Matsuda I, Nishimura T*, Tokuda IT*. (2025) Individual vocal identity is enhanced by the enlarged external nose in male proboscis monkeys (Nasalis larvatus). J. R. Soc. Interface 22: 20250098.
樹上二足歩行は人類の直立二足歩行の前適応
藤原崚宇 (博士後期課程)、設樂哲弥(助教)、および中野良彦(准教授)らは、テナガザルが地上と樹上とで、足場の条件に応じて、同じ二足歩行でも異なる運動を行っていることを明らかにしました。サル類での樹上での二足歩行の運動は、人類の地上での直立二足歩行を進化させる要因の一つと考えられています。本研究成果は、樹上に最も適応した類人猿であるテナガザルでの運動解析から、サル類に見られる樹上二足歩行の運動戦略が、地上に降りた人類における直立二足歩行へのスムーズな移行の礎になったことを示唆しました。
Fujiwara, T., Ito, K., Shitara, T., Nakano, Y. (2025). A three-dimensional kinematic analysis of bipedal walking in a white-handed gibbon (Hylobates lar) on a horizontal pole and flat surface. Primates 66: 189–206
